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回避・制限性食物摂取症(ARFID)

 
回避・制限性食物摂取症(回避・制限性食物摂取障害)(ARFID)は、DSM‒5 で「食行動障害および 摂食障害群(FED)」に新たに加わったカテゴリーである。


DSM‒Ⅳの「幼児期または小児期早期の哺育障害(FDIEC)」を拡張したもので、「発症は6 歳以前」という年齢による規定が削除され、更にGreat Ormond Street(GOS)診断基準の一部(食物回避性情緒障害、選択的摂食、機能的嚥下障害)を併合した、多くの病態が集合したカテゴリーと考えると理解しやすいとされる。

 

 

<目次>

 


 
診断

 


基準A

摂食または栄養摂取の障害で
 


  1. 有意の体重減少(臨床的に判断)

  2. 有意の栄養不足(臨床的に判断)

  3. 経腸栄養または経口栄養補助食品への依存

  4. 心理社会的機能の著しい障害


のうち1つ以上を伴う。


 


基準B

その
障害は食べ物が手に入らないことや文化的な慣習によるものでない。

 

基準C

神経性やせ症や神経性過食症の経過中のみに起こるものではない。

また、自分の体重や体型に対する感じ方に障害をもってい ない。

 


 
基準D

他の
医学的または精神的疾患で説明できない。

 

 

臨床像

 

診断的特徴として、「選択的摂食」「えり好み摂食」「固執的摂食」「慢性的食事拒否」「新奇食物恐怖症」などの食行動を有するとされる。


 
欧米で小児期・思春期の摂食障害患者を対象とした ARFID の研究では,ARFID は小児摂食障害の5~22.5%に存在し、神経性やせ症(AN)に比し年齢は若いが罹病期間は長く、男児の比率が約30%と高いとされる。
幼少期から選択的摂食(つまみ食い)、全般性不安、胃腸症状、嘔吐・窒息感、食物アレルギーなどが報告されている。


成人における ARFID の報告は数少なく臨床像は明らかでないが、小児・思春期の ARFID に準ずるとすれば、幼児・小児期の食行動の詳細な問診や、不安症・自閉スペクトラム症などの併存の確認が重要と考えられる。

なお、 
日本では ARFID についての記述は少ない。

 

併存症

 

小児の ARFID では併存症を有するケースが多く、不安症群や強迫症に加えて、自閉スペクトラム症ASD)、注意欠如・多動症ADHD)、知的能力障害がよくみられる。

うつ病の併存は少ないとされる。


また、消化器疾患(特に機能性胃腸症)や、食物アレルギー、食物不耐性にも注意が必要とされる。

 

鑑別
 
 


 

神経性やせ症(AN)


 
AN は ARFID との鑑別を要する重要な疾患で、
初診時にARFID と診断しても、経過中に「肥満恐怖」や「体重や体型に対する自己認知の障害」「体重増加を妨げる持続した行動」などが明らかとなれば、神経性やせ症に診断変更される。


日本では1960 年頃から「肥満恐怖」や「身体イメージの障害」の明らかでない AN の存在が報告されている。
このような「肥満恐怖のないAN(NFP‒AN)」 はアジアに多いが欧米では少ないとされ、各種評価尺度でのスケーリングでは食行動異常関連症状(やせ願望や自己像不満)および精神症状(無力感や自己認知の欠如など)がANと比較して有意に低いとされる。そのためNFP‒AN は ARFID であるという意見がある。
しかし、DSM‒5 の ARFID の解説では、NFP‒AN は「肥満 への恐怖を否定しながら体重増加を防ぐ持続的な 行動をとり、自分の低体重の医学的重大性を認識 していない神経性やせ症」と記述されている。

 

その他

ARFID の鑑別診断として、他の医学的疾患、自閉スペクトラム症、不安症群などが挙げられる。
ただし、これらの疾患は ARFID と併存することも多く、その場合にはARFID の発症にどの ように関与しているかを考察する必要がある。

 

 

参考文献

・中井義勝, et al: 心身医学, 57(1), 69–74, 2017.

・中井義勝, et al: 精神神経学雑誌 118(12): 867–79, 2016.


・吉内一浩, et al: 精神神経学雑誌 116(7): 626–28, 2014.